やなりん魂・その3「泣いた木こり」

2023.06.02

その若い木こりは、泣いていました。

生まれて初めて伐る木の前で、人目も憚らず泣いていました。
親方に伐るように言われた木の前に立った時、
無意識にこぼれた涙は、止まらなくなっていました。
そして、その木を伐ることができませんでした。
そして、その木は別の木こりに伐られました。

木こりは考えました。なぜ自分は伐れなかったのか?
その木が可哀想だから?
木という命を絶つことが急に怖くなったから?

違う、そんな木への薄っぺらな同情じゃないことを
木こりは分かっていました。

木を伐るために木と真正面から向き合った瞬間に、
それまでの木と自分の関係がガラッと変わったことに、
木こりは感情を激しく揺さぶられたのです。

木こりになるまでの木への想いは、恋心。
でも木こりに必要なのは、木の命をすべて受け止める、愛情。
そう気づくことで、木こりとしての覚悟が決まったのでした。

木こりにとって木を伐ることは、単に伐採することではなく、
その木を伐ることで周りの木を生かすことであり、
伐った木の命を預かり、その本当の価値を分かる人へ渡していくことの始まり。

それから数十年、若い木こりはベテランの木こりになっていました。
これまで何万本の木を伐ってきましたが、
初めての一本を伐れなかった時の気持ちを忘れることはありません。
今日も、木への愛は変わることなく、一本一本の木と真正面から向き合っています

愛しているから、自分が伐る。
愛しているから、伐った木の命を預かる。
愛しているから、命の個性を生かしきる。

それが、やなりんの木こりの想いです。

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