私たちは日々多くの命をいただいて生きています。
しかし、例えば毎日の食事を目の前にして、そこに命のやり取りを感じることはなかなか難しいことです。
生き物すべてが命のやり取りの循環のなかに住んでいる世界の中で、その輪からちょっと離れている様な気持ちで居ることは、なんだか寂しいことの様に感じます。
〝命をいただくこと〟について、
それを学ぶのに山という環境はもってこいの場所です。
山の恵み、今回は『狩猟とジビエ(食材としての野生動物)』について。
2月28日~3月1日、『南アルプス長谷杉島の山里の恵みを満喫する旅・冬〈特別編〉』というツアーに参加させていただきました。
〝猟師さんに猟を学び、実際に同行させてもらう、そして丁寧に料理された鹿肉料理フルコースを囲炉裏を囲んで皆でいただく〟
なんて素敵な趣旨のツアーなのでしょう!
このツアーを企画されているのは株式会社タビゼンの須藤さん。
山梨県を中心にワインや農、食などをテーマに様々なものや人との出合いの旅をつくられています。
そして鹿料理と囲炉裏のお宿は、長野県伊那市長谷杉島、南アルプス仙丈ヶ岳の麓の美しい風景の中にある古民家のお宿、ざんざ亭。
ほっこり落ち着くあたたかい雰囲気と、何といっても絶品の鹿料理がいただける魅惑のお宿です。
以前イベントでこちらに宿泊した社長と先輩から聞くお土産話に「いつか必ず…!」の夢が叶いました。
(去年のイベント参加時のブログはこちら)
一日目は罠についてを学びます。
教えて下さるのは、猟師の小出さん。
狩猟に対する揺るがない信念を持ち、「いかに美味しく命をいただききるか」を追求されている小出さんの持つ技術・道具は、みな洗練されていて無駄がなく、何にも勝る説得力を持っています。
罠は笠松式くくり罠。
罠にかかった参加者男性。
なかなかない経験ですね!
この罠はかかる動物の種類を限定するために、乗った時の重さで罠が作動するか否かの調節ができます。
動物を傷めないために、ワイヤーの閉りの調節も可能です。
次は仕掛ける場所の選定です。
動物の習性や、地形、獣道の痕跡、足跡などから場所を決めていきます。
どこに埋まっているかわかりますか?
足跡の見分け方も教わりました。
その後は基本的なロープワークを習います。
これがなかなか難しい。
日もかげり、
宿に戻るとあたたかくあま~いクロモジチャイ!
クロモジは楊枝などに使われる木で、とても良い香りがするのです。
染み渡る…
※チャイとは、インド式に甘く煮出したミルクティーのこと。
そしてお待ちかねのディナーでございます。
猟師の小出さんにいろんなお話を伺いながら、皆で囲炉裏を囲みます。
おしながき。
鹿、鹿、鹿、怒涛の〝鹿〟の文字。
いくつかをご紹介。
前菜の盛り合わせ
鹿セルヴェル天ぷらと鹿ベーコンの茶わん蒸し
※セルヴェルとはなんと脳みそです。
鹿ローストとセリあんかけ
などなど。
丁寧に調理された鹿はどれも驚くほど臭みを感じず、
さらに「鹿は硬い」という先入観も覆される柔らかさでした。
狩猟ツアーだけに、どこかで「よし、命をいただくぞ。」という妙な心構えがあったのだと思います。
その違和感に気づいたのは、料理をいただいて、ただ純粋に感動し「ああ、しあわせだ。有り難い。」と思った瞬間でした。
小出さんの語る狩猟者のこころは、「いかに美味しく命をいただききるか」。
それはお料理を作ってくださる店主の長谷部さんも同じなのだと思います。
お二人が鹿に敬意を持って、仕留め、解体して肉にし、料理した結果、私はただ純粋に美味しいと思った。
そして鹿に、お二人に感謝した。
〝誠意〟〝敬意〟は伝染するものなのだと思います。
こころのこもった行動の産物がこの料理で、それはこころを繋げるのだと感じました。
二日目
優しく美味しい朝ごはんの後は、
小出さんが事前に準備してくださっていた罠のポイントを巡ります。
静かな山の中から聞こえる音、
木立の隙間にちらりと動く何かが見えました。
小出さんが近づき、
そして、撃つ。
一瞬の銃声の後は、山全体がとても静かでした。
命のなくなる瞬間、動かない鹿の目は美しいエメラルドグリーン色に変わっていきます。
私たちはいろんな感情を持ちながら、素早い手つきで処理をする小出さんの動きをじっと見つめていました。
鹿は、まだ幼い雌でした。
次のポイントでも鹿はかかっていました。
このツアーが始まって2年経つそうですが、2頭も獲れたのははじめてのことだそうです。
2頭目の鹿は1歳くらいの雄。
小出さんが近づくと悲しげな声で鳴きました。
前日の夜に、小出さんが「命を奪う瞬間、可哀想だと思わなかったことは一度もない」と話していたことを思い出しました。
それから解体を見学させていただきました。
参加者のひとりの方が
「不謹慎かもしれないけれど、こんなに美しく見えることに驚いた。
でも写真に撮ると、ただグロテスクに見えてしまう。不思議。」と仰っていて、
本当にその通りだと思ったので、画像は載せません。
これは是非、たくさんのひとに実際に見て体験してもらいたいと思いました。
ただし、あんなにも美しく見えたのは、小出さんの動き全てが〝鹿を良い状態で肉に仕上げる〟ことに徹していたからなのでしょう。
てきぱきと解体が進んでいくなかで、
「〝かわいい〟と〝おいしそう〟の境目は皮が付いているかどうかなんだね」と皆で話していました。
命を奪うことが闇雲にタブー視されがちな現代において、その感覚はなかなか感じられるものではないと思います。
命をいただくことは〝悪〟なのでしょうか。
このツアーに参加して私は、
命をいただくことが〝悪〟ではなく、いただいた命を活かせないことは〝罪〟だと感じました。
宿に戻り、昼食をいただきました。
こんなにも沁みたラーメンは初めてでした。
余談ですがその数日後、
私は長野県が県として取り組んでいるジビエ振興の活動の一環である『信州ジビエマイスター養成講座』の試験を受け、
そして合格しました。
「ジビエマイスターです。」と名乗って良いそうなのですが…
長谷部さんのお料理を堪能した後では、「まだまだ、精進せねば!」と思っております。
知ることで、選択肢は広がるものですね。
いろんな生き物がいろんな生き方をして、
そして食べ物として私たちと出会います。
山の恵みは味わい深く、そして心にも美味いものです。
(なかの)