株式会社柳沢林業(本社:長野県松本市、代表取締役:原 薫)は、「2021年度グッドデザイン賞」(公益財団法人日本デザイン振興会運営)を受賞しました。受賞内容は「未来を育む持続可能な地域デザイン〔信州・松本平の豊かな風景をつくる〕」として、会社の取り組みそのものが認められました。柳沢林業は山・森林・木を知るプロ集団として、祖業である林業をはじめ、木材加工・販売、薪材の生産販売、キャンプ場運営、農業、農産物加工、地域コミュニティイベント、里山再生などの事業を、他企業とのコラボレーションを交えて展開しています。人と自然が真の意味で共生ができる持続可能な地域社会の実現に向けて、今後も事業展開を進めてまいります。
01
木こりがつなぐ森と街
プロダクトデザイン事業
山を知り、森を知り、木を知る“木こり”ならではの知識と感性でデザイン提案を行い、地域の街並みや空間演出でナチュラルなライフスタイルつくりに貢献しています。また、流通の無駄を省き、素材を活かしたオリジナルな空間装飾品・家具材・建材から薪・炭まで余すことなく提供することで林業の六次産業化を目指しています。林業者が自ら木材の出口づくりを進めることによって、補助金頼みにならない地域にふさわしい山づくりが可能となり、ひいては松本平らしい空間やまちなみ、ライフスタイルをつくると考えています。
燻製工房 燻丸
松本中町に2021年7月にオープンした燻製店。猟師でもあるオーナーの「街で木に触れ合えるお店に」というコンセプトで、内装デザインと施工を行いました。ケヤキソファは井川城の廣正寺、丸太ベンチは三郷小倉産、壁のアカマツは内田産、積んである薪ディスプレイは地元松本平の30種類の木で作っています。燻製工房 燻丸さんは、燻製体験もできてオリジナルスモーク商品も楽しい。夜はワインと一緒に素敵な時間も過ごせます。さまざまな“木”に囲まれた安らぎの空間を是非ご体験ください。
木を見る目(ウッドデザイン賞2020年 ソーシャルデザイン部門受賞)
松本市の大澤建築店とのコラボレーション。一般流通しない根曲り杉を応接室の曲がり梁に使用した住宅です。初雪の降る中、豪雪地帯の小谷で伐採し、松本へ運んで丁寧に皮をむき自然乾燥しました。その後、墨打ち〜刻み〜建て方まで、ありのままの木の姿を見事におさめる技術と、数寄屋棟梁の技術によって実現しています。選木の目利きも凄いけれど、どんな木でも組んでしまう棟梁たちとの仕事は毎回楽しく、山や木を見る目が養われます。
02
馬と人がつくる里山デザイン
里山はかつて、「入会地」と呼ばれ、地域の人々が出入りできる共有林でした。時代を経て共有林の文化は廃れ、里山は個人所有の森林へと変わり、これらの森林は世代交代や、都市部への人口流出により、荒廃林・放置林化が進んでしまいました。森林という公共性の高いものを個人で管理するのには限界があり、人々の繋がりで支えていく必要があると考えています。私たちは、里山でのソマイチや、馬搬・馬耕を通じた農林業文化の再生など、地域の輪が広がることを念頭に事業を展開しています。里山・森林・木材の使い方の出口をデザインし、人々が里山の可能性に眼を向けるきっかけとなる。そして、里山に人々の繋がりが構築されていくことが、長い眼でみれば、地域の持続可能性を高める土台になっていくと考えています。
信州松本平の里山で遊ぶ ソマイチ
ソマイチは、会社の裏山で、月1回開催する地域イベント。杣(林業者)の市(市場)で、ソマイチ。木工ワークショップや、薪割り・焚き火、木登り、乗馬体験、木材・加工品と農産物の販売を行っています。 一般の方との交流を通して思わぬ発想に出会ったり、皆さんの求めているものに気づいたり。森林・木材への敷居を下げ、木の魅力・林業への理解を広げることにつながっています。かつての里山のように、人々の営みが循環し、多様な自然環境をもたらす場となるよう活動を続けています。
馬搬・馬耕を通じた農林業文化の再生
2016年、北海道ばんえい競馬の引退馬「ヤマト」を会社に招きました。木材を馬で運搬する「馬搬」、田畑を馬で耕す「馬耕」。かつての農林業を支えた技術に目を付けたことが始まりでした。実際に共に過ごしてみると、技術以上に、道具ではない「生き物」がそこに存在することの意味を強く感じます。ヤマトをきっかけに地域の人々がこの場所を訪れ、交流が生まれ、山が風通しのいい場所になる。この循環が、農業と林業、自然と人、人と人を繋げ、地域づくりへと広がっていくのだと思います。
03
自然と調和する働き方
林業は補助金を受け森林整備を行うことが多く、行政の仕組みなどによって気候風土にマッチしない作業を行わざるを得ない場合があります。例えば、現在の林業は、季節を問わず伐採を行うのが一般的です。しかしながら、夏季の木材は水分を多く含みカビやすく、本来、伐採は冬・農閑期にすべき仕事です。既存の枠組みを取り払い、この工業生産的な働き方を見直していく必要があると考えています。私たちは、冬には本業の伐採を行い、夏には農業やキャンプ場運営を行うなど、日本の気候風土や、林業のもともとの自然の摂理に合った仕事の創出を目指しています。また、社員の特技や興味を林業と掛けあわせることで、事業の幅を広げ、社員の仕事の満足度を高める努力を重ねています。馬方、農業、木工、キャンプ場を皮切りに、現在も様々な展開を模索中です。
美鈴湖もりの国オートキャンプ場
コンセプトは「山で過ごす、火を焚く。山での時間はこの街の日常。暮らす人も、訪れる人も、もっとこの街が好きになる」。自然を非日常として切り離すのではなく、もっと気軽に感じてほしい、という林業者としての思いから、キャンプ場運営に参入しました。柳沢林業ならではの「森」、「木」、「薪」、「焚き火」、そして地元企業ならではのローカルな繋がりを大事にする、新しい価値観をもった魅力的なキャンプ場にしていきたいと思っています。
未来へつなぐ山づくり
木を伐るとは活かすということ。私たちの本業はあくまで木こりです。木材生産という狭義の林業だけでなく、環境保全や水源、観光的価値など、山には多様な役割があります。未来の姿を具体的にイメージしながら、山づくりに取り組んでいます。加工品や薪販売などを通して、切った木を活かし、多角的に地域材を使うことが、その背後にある林業を守り、森林を守ることにつながります。
受賞概要
- 表彰名
- :2021年度グッドデザイン賞
- 受賞対象名
- :未来を育む持続可能な地域デザイン〔信州・松本平の豊かな風景をつくる〕
- 応募カテゴリ
- :17-01 地域の取り組み・活動
- 受賞企業
- :株式会社柳沢林業
評価コメント
林業は後継者不足、材の流通、事業性の減少(補助金依存)といった多くの課題を抱えている。そういった課題に向き合い、本来その山のもつ風土や地形・気象条件や生態系にあわせた樹種の伐採計画、育成方法を選びながら山を良い状態に保つために、農業やアウトドア事業・6次化等によって収益率を上げることで事業性を維持しながら山を守り、林業という仕事を魅力的に発信、継続している。また、業種・業態を超えた様々な企業とコラボレートすることで木材の可能性を引き上げ、山の恵みを生かして柳沢林業を軸に山の恵みを生かした地域循環を生み出している点も評価したい。
グッドデザイン賞とは
グッドデザイン賞は、デザインによって私たちの暮らしや社会をよりよくしていくための活動です。1957年の開始以来、シンボルマークの「Gマーク」とともに広く親しまれてきました。グッドデザイン賞は、製品、建築、ソフトウェア、システム、サービスなど、私たちを取りまくさまざまなものごとに贈られます。かたちのある無しにかかわらず、人が何らかの理想や目的を果たすために築いたものごとをデザインととらえ、その質を評価・顕彰しています。さらに、複雑化する社会において、課題の解決や新たなテーマの発見にデザインが必要とされ、デザインへの期待が高まっています。グッドデザイン賞は、審査と多様なプロモーションを通じて、デザインに可能性を見出す人びとを支援し、デザインにできること・デザインが生かされる領域を広げ、私たちひとりひとりが豊かに、創造的に生きられる社会をめざしています。