5月21日、晴天。
松本市入山辺にて今年度第一回目のソマミチツアーが開催されました!

今回のテーマは、「山を歩く、山を知る。」
全国ニュースにもなった2016年1月の雨氷被害の被害状況を見学しながら、
戦後の植林に始まり現在の造林、将来の理想の山林の姿などを林業者の立場からお伝えしました。

山仕事創造舎の香山さんの案内で、さっそく森の中へ入ります。
まずは柳沢林業が手入れに入らせていただていた森を歩きました。
今回の雨氷被害では、このあたり一帯に多いカラマツ林の、ある一定の標高が特に帯状になって被害が大きいという特徴がありました。
その背景には、カラマツという木の特性が関係しています。
カラマツはそもそも、高標高で土地の肥えていない(土が少ないような)過酷な環境下に真っ先に生えてくるパイオニア的な植物でした。
光を好み成長は他の針葉樹に比べ早いですが、もともとの原産地の過酷な環境下ではそこまで大きくは育つことのできない木です。
それを適地かどうかを見極めるよりも早くカラマツの植林が進んだために、
土地に合わなかったものや、途中から手入れがされなくなり様々な原因によって弱ってしまったものから被害にあっているというような現状が見て取れました。

弱ってしまう一因、つるに覆われて枝が枯れ落ちてしまったカラマツ。
さいわい柳沢林業の手入れさせていただいていた森林は、持ち主の方々が手入れを続けてくれていたこと・適正な間伐ができたことで、他の同標高のカラマツ林と比べ被害は少なく済みました。
が、

対岸の被害状況

被害の大きかった他の場所
入山辺全体では、実際に上部画像のように多大な被害を受けてしまった場所も少なくはなく、その現状はショックを受けるものでした。

これは生えている木ではありません。
折れた木の頭が地面に突き刺さっています。

頭の折れてしまったカラマツの上部。

根から倒れてしまったカラマツ。
そんな現状を見ながら、香山さんのお話は続きます。
カラマツの森の可能性について。
カラマツの森は、他の針葉樹と比べ明るい森になるために、葉を広げた下には広葉樹が育ちやすいこと。

クリの木。(質の良いものはヒノキよりも高い値がつくそうです。)

ウリハダカエデ。(最近ではこの木の樹液でメープルシロップを作るという取り組みもあるそうです。)
下に目を向けると、

ホオの木が萌芽しています。
よく見ると他の木も切り株からも次々と萌芽しているのがわかりました。
広葉樹は生命力がとても強いことを改めて思い知らされます。
この様に植生の多様性に富んだ森林は様々な生命の住みかとなるだけでなく、単一の植生の森よりも病気に強い・地盤を強くするなどの素晴らしい働きもしてくれます。

足元に小さな花が咲いていました。
次はこの様な災害にあった木でも材としての価値はあるのかどうか、林友ハウス工業の竹腰さんに判定していただきます。

高さ5~6mのところで折れてしまったカラマツ。

折れてまだあまり月日の経っていないこの木の場合、「今の時点で板がとれるので、外壁材などとしても十分に使えるところが多い。」とのコメント頂きました。
またカラマツは他の針葉樹と比べて、頭が折れてしまった木でもまたそこから新しい枝を成長させていくことができる木だそうです。
材として活かすか、また木として生かしていくのか、最善の道を選んでいけたらと思いました。
お昼は美ヶ原高原へと続くビーナスラインを少しのぼり、アトリエm4さんの工房のお庭でお弁当を広げました。

いつお邪魔しても素敵な場所です。

前田さんに木工品の材料としてのカラマツのお話を伺いました。
工房からも見渡す景色の中にカラマツの新緑が鮮やかなこの場所で、前田さんは「これだけあるカラマツを活かしたい。」という思いと、その気持ちを上回るくらい美しいカラマツに惚れこんで、カラマツの木工を研究・制作活動をされています。
カラマツは心材(年輪の中心部分)の繊維がねじれているため、板が大きく反ってしまうという職人泣かせの木だと長年嫌煙されてきました。
また、前田さん曰く「カラマツの年輪は、スポンジと鉄板が交互に重なっているような材質」だそうで、固い層と柔らかい層があることが加工において非常に難しいポイントでもあるそうです。
ですが現在ではスギやヒノキとは違う製材の方法をとり、曲りの少ない板に製材する方法が編み出され、少しずつ感覚は変わってきているそうです。
カラマツの材質は、あまり適地ではない人工林産と天然の原産地産(または適地で育てられたカラマツ)では木目の細かさが大きく違い、適地で育ったカラマツの木目は非常に細かく、加工もしやすいという利点があります。

左側が適地で育ったカラマツ、右側が一般的な人工林産のカラマツ。
一本の木でも部分によって材質が変わってくることもあり、一本の木から銘木~合板材まで、従来よりもより柔軟な適材適役の木材活用がしていけたらと改めて課題を意識しました。
午後は15年前に柳沢林業が手入れに入らせていただいた付近のカラマツ林を見学しました。

香山さんより「安定していてバランスの良い森、長生きする森」という評価をいただき、また改めてこの森の10年後、30年後を想像して夢が広がりました。
カラマツ林業の歴史は、スギやヒノキに比べとても浅いです。
昭和30年以降、電柱として等の需要が急速に高まったために、各地で植林が進み、カラマツの人工林をつくるカラマツ林業が始まりました。
松本には特に多くのカラマツ林が存在しますが、もともと松本平にはカラマツは自生していませんでした。
苗木を山へ担ぎ上げては、一本一本植えていったものが今日見られる立派なカラマツ林になったのです。
(そう思うと、改めて先人の努力に驚かされます。)
そのカラマツ林業において今は初めての収穫期が始まった状態と言えます。
この豊富な資源を活かし、また新たなカラマツ林業の形を創造していくことができるのだと考えるとますます胸が高鳴りました。
林地を受け継ぐことがお荷物にならない、山主さんと一緒にもっとわくわくできる山づくりを実現していきたいと、私たちも改めて勉強になるツアーでした。
参加していただいたお客様(県内外より役10名弱、スタッフや関係者・報道機関が集まると20名ほど)も木や山に関わるお仕事をされている方や関心の強い方が多く、解散後も話が弾んで井戸端ならぬ、山端会議状態となっていました。
こうやって様々なお客様とお話ができる機会は本当に貴重な経験です。
今回のツアーを終えて、カラマツという木は「ニッチを生き抜くマイペースな変わり者」だなあと親近感を抱き、またカラマツが好きになりました。
そんなカラマツのことをもっと知って、その魅力を沢山お伝えできる人間になりたいなあと、ほくほくした素敵な週末でした。
なかの